誰もが一度は本物そっくりの食品サンプルに見入ったことがあるのではないでしょうか。日本の文化でもある食品サンプルは今やお店で買えたり、製作体験で自分たちでも作れたりと、より身近な存在になりました。
今回はそんな食品サンプルの世界に未経験から入り、目を奪うような素敵な作品を手掛けている、「食品サンプル工房アップルキャンディー」のTommyさんにお話を伺いました。
“なぜ食品サンプルの世界に入ったのか”、“どのような作品を作っているのか”など、さまざまなお話を伺いしましたので、食品サンプルに見入った経験のある方はぜひ読んでみてくださいね。
目次
根拠はなかったが、“今回は絶対続く”という確信を持って食品サンプルの世界へ
まず始めに現在のTommyさんのお仕事内容を教えてください。
Tommyさん:食品サンプルのワークショップの講師をしています。また、展示会で食品サンプルを展示することもありますね。ワークショップは公民館やカルチャーセンター、ショッピングモール、自分のアトリエでも開催しています。
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京急百貨店で展示された、1m超えのマカロンタワー
Tommyさんはどのような経緯で食品サンプルの世界に入られたのでしょうか。
Tommyさん:高校卒業後はバスガイドや写真屋の店長をしていました。その後、子育てが落ち着いたタイミングで“これからは後悔のないように生きよう!”と一大決心をしました。決心してすぐに「一般社団法人 日本食品サンプルアート協会」の講座に申し込み、もともと好きだった食品サンプルの世界に飛び込んだんです。
食品サンプルをやると決めたときのご家族の反応はいかがでしたか?
Tommyさん:講座を受講するのにもお金がかかるため、家族に決意を伝えたのですが、大反対でした(笑)。私が熱しやすく冷めやすい性格だということをよく知っていたんですね。ただ自分としては根拠はありませんでしたが、“今回は絶対に続く”という自信があったんです。
「一般社団法人 日本食品サンプルアート協会」の講座受講後はすぐにワークショップを始められたんですか?
Tommyさん:そうです。当時技術はありませんでしたが、ワークショップの予定をどんどん入れていきました。予定を入れたからにはどうにかワークショップを成り立たせないといけないですよね。当時は予定を入れて、それに向けて動いてまた予定を入れて・・・というのをずっと繰り返して、技術をつけていきました。
ワークショップのマイルールは“絶対に参加者の作品に手を付けない”
ワークショップではどのような食品サンプルを作るんですか?
Tommyさん:子どもが喜びそうなものが多いですね。パフェやソフトクリームなどカラフルなデザート系の食品サンプルは子どもに人気なので、よく作っています。
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ワークショップではたとえば上記のようなクリームソーダも作れる
ワークショップをする上で気をつけている点はありますか?
Tommyさん:“参加者が作っている作品には絶対に手を付けない”ことです。意外と講師は善意から、「ここはこの色を塗ったほうが良いよ」と勝手に筆で作品を塗ったりと、手を付けてしまいがちです。ただ講師が手を加えた作品はもうその人の作品ではなくなってしまいます。自分の好きなように作ってほしいという思いもあり、絶対に手を加えないようにしています。
ワークショップで印象に残った嬉しい反応は何でしょうか?
Tommyさん:「楽しかった」というのが一番ですが、大人の参加者で割と多いのが「現実を忘れて集中できた」という感想をくれる方です。普段の嫌なことを忘れて没頭できるようで、こちらとしても嬉しいですね。
これまでワークショップやその他活動をされてきて、大変だったことはありますか?
Tommyさん:挫折するまでまだやっていません。一生懸命駆け抜けている最中ですね!
長く飾って楽しんでもらうため、日々地道に研究中
Tommyさんご自身は普段どのような作品を作っているんですか?
Tommyさん:私は基本的に「食べたいものを食べたい量」作っています。食品サンプルは全部本物の食べ物から型を取って、型に樹脂を流して製作していくのですが、完成前からどのような作品に仕上がるのか、想像するのはすごく楽しいですね。
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タライからこれでもかという量のいくらが降り注ぐ「いくら丼」。これもTommyさんが「食べたいものを食べたい量」で作った作品
Tommyさんの作品は本当に美味しそうに見えます。スキルはどのように伸ばされているのでしょうか?
Tommyさん:日々修行ですね。全種類の接着剤を試してみたり、色が退色しないか1年後にもう一度確認したりなど、実物の食べ物を見ながら試行錯誤をしながら研究しています。
一度色を塗ってから1年後にもう一度色をチェックするんですね。率直に大変そうだと思いました。
Tommyさん:とくにワークショップでは“その場だけ良いものが作れたら良い”という人も少なくないんですが、たとえば作った作品が半年後に色が悪くなってしまったら少し悲しいですよね。私としても作った作品は長く飾っていてほしいと思うので、耐久性に加えて、“何年経っても色褪せないようにするにはどうすれば良いのか”をしっかり研究して追い求めています。
アトリエでは月に1回、さまざまな作家さんが集う“ヒラツカベースマルシェ”を開催中
アトリエはどのような経緯で開くことになったのでしょうか?
Tommyさん:家で身動きが取れなくなるほど、食品サンプルの型の量が増えてしまい、「どこか型を置ける場所はないかな?」と思っていたところ、近所でタイミングよく良い物件が空いたので、即決してアトリエを借りました。
アトリエでもワークショップを開催されるんですよね?
Tommyさん:そうです。またアトリエでは「ヒラツカベースマルシェ」も毎月第一日曜日に開催しています。
「ヒラツカベースマルシェ」とは何でしょうか?
Tommyさん:アトリエにさまざまな作家・アーティストを呼んで、作品の展示や販売、ワークショップをしてもらうイベントです。これまでもミニチュアフードや編み物、レジンアクセサリーなどさまざまな作品を作るアーティストの方々をお呼びしました。
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ヒラツカベースマルシェではTommyさんも参加する
アトリエでもさまざまなご活動をされているんですね。それでは最後に神奈川イベントプラスの読者にメッセージをお願いします。
Tommyさん:とくに子育て中のママさんは“いつか子どもが大きくなったら○○をしよう”と考えている人が少なくないと思います。ただ私の経験上、「やりたいと思ったときがそのとき」だと思うので、やるなら今やってみてはいかがでしょうか、とお伝えしたいですね。私自身も食品サンプルは子どもが中学2年生の頃に始めました。忙しい時期ではありましたが、食品サンプルが親子のコミュニケーションのきっかけにもなり、その意味でもやりたいと思ったときに始めて良かったと思っています。
取材を終えて
取材ではナポリタンやチャーハンなど実際の食品サンプルも見せてもらいました。ナポリタンは本物そっくりでとても美味しそう。またチャーハンは中華鍋の上で豪快にそそり立っており、その迫力に驚きました。このクオリティーの裏には色合いを何度も変えてみたり、年単位で色をチェックするなど、Tommyさんの地道な努力があり、さらにその努力の源には「長く飾って楽しんでほしい」という思いがあることがわかりました。食品サンプルに興味がある人はぜひTommyさんのワークショップや神奈川イベントプラスのイベントに参加してみてはいかがでしょうか。
インタビュワー:庄子 鮎
カメラマン:土屋由樹奈