約10年間、テレビ朝日のアナウンサーとしてご活躍された前田有紀さんは、イギリス留学や都内の生花店での勤務を経て、フラワーアーティストとして独立。2018年秋にはオリジナルフラワーブランド「gui(グイ)」を立ち上げ、多様な業界とコラボするなど、多くの方に花の魅力を伝えてきました。
そんな前田さんは2021年4月に、夢だったという実店舗「NUR(ヌア)」を東京・神宮前に開店。また6月には子どもを対象とした花のワークショップ「花の教室」を開催しました。
前編ではテレビ局から花屋に転職された経緯や、前田さんが積極的に取り組んでいる他業界とのコラボなどを中心にお話をお聞きしました。
花に出会う人を増やしたい
テレビ局のアナウンサーから花屋に転職された経緯を教えてください。
アナウンサーの仕事はとても楽しく、毎日充実していました。ただ、取材などを通じて出会った、第一線で活躍されている方々は好きなことを仕事にしていて、目の輝きが全く違ったんですね。いつしか私も、「アナウンサーの仕事は大好き。ただ、もっと好きなものがあるのでは?」と思うようになりました。それで辿り着いたのが「花」なんです。
好きなこと探しのために、休日はさまざまな習い事をしてみました。そのなかで、花の仕事をしようと思ったきっかけは、部屋に飾ってあった一輪の花に元気をもらえたこと。それから、子どもの頃花が好きだったことや母親が花を飾っていたことなどを思い出したりして、「もっと花のことを勉強したい。深めたい」という思いが強くなったんです。そして、新しい世界に飛び込みたい!と思ったタイミングで、転職しました。
テレビ局退職後は、イギリス留学や生花店での勤務を経て、最初は移動花屋「gui」を始められたかと思います。最初に移動花屋を始められた思いをお聞かせください。
guiを始めたのは「花に出会う人を増やしたい」という思いからです。guiは移動販売を主体としていて、洋服屋やカフェなどのお店の軒先を借りて花を販売しています。いつも通っている帰り道に急に移動花屋が現れたら、花に興味がない人でも立ち止まって、花のことを良いなと思ってくれるキッカケになるのでは?と思ったんですね。これまで花に興味が薄かった人にも、花に触れ合うキッカケをつくりたいなと思い、guiを始めました。
コラボは花に関心がない人の興味を引くきっかけに
前田さんはさまざまな業界とコラボされていますが、それも花の魅力を多くの人に伝えることを目的とされているのでしょうか?
そうです。やっぱりコラボをすることで、花に関心がない人の興味を引くキッカケになると思うんですね。生花店の修業時代から、自分が起業したときには必ずコラボはしてみたいと思っていました。問い合わせフォームから連絡したり、インスタグラムでDM送ったりと、日々コラボしてくれる方々を地道に探しています!
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コラボの一例。セレクトショップNOLLEY’S(ノーリーズ)とのコラボではコラボTシャツを制作。guiのフラワーデザインがプリントされている。
これまでのコラボの中でも特に印象に残ったものは何でしょうか?
もちろんどのコラボも素晴らしい機会をいただいてきたのですが、特に2021年4月、アパレル企業の株式会社ワールドさんとコラボしたことは印象に残っています。ワールドさんとのコラボでは、北青山ビルの1階で、ロスフラワーのアート展「HOPE for HEART」を開催して、フラワードレスを展示しました。
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「HOPE for HEART」で展示されたドレス「Statice(スターチス)」。スターチスの綺麗な色はそのままに、新しい花と一緒にドレスにあしらわれいる。
「HOPE for HEART」では、お店で花を買うという体験ではなく、花の新しい在り方について発信できたと思っています。
ロスフラワーのアート展ということは、売れ残った花材を活用されているのでしょうか?
そうなんです。ワールドさんと打ち合わせを重ねながら、ドレスの制作を進めていったのですが、花の一部は自分たちの活動や販売で余ったものを新しく仕入れたお花と合わせて使っていました。生地もワールドさんが洋服をつくる過程のなかで、余剰となったものを使用しているんです。
そうなんですね!お話を聞きていて、花が廃棄になってしまういわゆる「フラワーロス」への意識が強いように感じられました。
今回のコラボのように、売れ残ってしまったお花をなるべく捨てずに作品作りに使用したり、最後まで大切に使うことを意識しています。さらに、こうした私たちの活動を発信することで、お客様も「花を大切にしよう」と思ってくださるきっかけになれば良いなと思っています。お花はなるべく捨てずに、循環させていきたいですね。
今後コラボしてみたい方・業界などあれば教えてください。
文具メーカーとコラボして、子ども向けのお花の色に見立てた色鉛筆を作りたい、と思っています。私の子どもが使っている色鉛筆もですが、市販の色鉛筆は色が定番のものが多いですよね。そこで、桜色や桃色、タンポポ色など、お花の色の色鉛筆をコラボして作って、お花の表現の広がりを伝えていけたら良いなと思っています。
コロナ禍で、花に関わる時間が増えた
コロナ禍は生活にさまざまな変化をもたらしたかと思いますが、花との関わりに変化はありましたか?
ステイホームが増えて、以前にも増して家で花を飾る機会が増えました。その結果、子どもが花とたくさん関わるようになりましたね。子どもと花について話をすることが多くなり、また子どももたまに水揚げのお手伝いをするようになりました。子どもが花により関心を持ってくれているのを感じて、すごく嬉しいですね。
コロナ禍以降は、家で花を飾る人が増えているので、ステイホームがお花の裾野が広がるキッカケになったのかな、と思います。家で花を飾ることが一時的なことではなく、ずっと続いていってくれたら嬉しいですね。
「お花の裾野を広げる」、これは前田さんが活動の柱の一つにされていることですね。
そうですね。お花は1輪400円くらいで買えますが、1輪貰うだけでもすごく嬉しいですよね。何気ない日でも良いので、「1輪買ってきたよ。どうぞ」という日常がもっと増えたら良いな、と思っています。
1輪渡すだけでも喜んでもらえる・・・そう考えるとお花って費用対効果が良いですね!
そうなんです!私がイギリス留学していたときは、本当にみんな気軽に花屋に入って、さっとお花を買っていくんです。待ち合わせでも、「綺麗だったから買ってきたよ」と花を持って現れる人が結構いて・・・イギリスではお花がもっと身近な存在だったんですね。「荷物になるし」とかも全然思わないみたいで、お花が日常に入り込んでいるんです。そんな未来を日本でもつくりたいなぁと思っています。
・・・と言いつつ、一番身近な夫も「花屋はまだ入るのは恥ずかしい」と言っているので、まだまだ道は長いなぁと感じています(笑)
最後に「こういうお店をつくりたいな」と感じる、目標としているお店はありますか?
私はお花屋さんが好きで、修業時代から東京中のいろんなお花屋さんに1日何件も行ったりして、どのような花を仕入れているのか、どのような店作りしているかなどを見に行っていたんです。そのため、全ての花屋さんが目標ではあるのですが、その中でも東京・代々木八幡にあるedenworks(エデンワークス)さんは目標としている花屋の一つですね。
edenworksさんは自分たちの思いや世界観を大切にしながら花屋を営んでいらっしゃるんです。また、売れ残りや使い終わって役目を終えたお花をドライフラワーにして、ドライフラワー専門のお店で販売するなど、ロスフラワーを少なく、お花を循環させる形で事業をされていて、すごく憧れています。
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前編はここまで。後編では2021年4月にオープンした実店舗「NUR(ヌア)」や子どもを対象としたワークショップ「花の教室」について詳しく伺います。
後編のインタビュー
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インタビュワー:庄子 鮎
カメラマン:鶴岡悠子